幾何学と感性が交差する「Moonlit Treading」アパートメント

非対称性とミニマリズムが生む新しい住空間の美学

台湾・台中市で完成した「Moonlit Treading」は、デザイナーHsin Tingが幾何学的なフォルムとミニマリズムを融合させ、住まいの新たな可能性を提示するアパートメントプロジェクトです。2025年のA' Design AwardでIron賞を受賞した本作は、個人の精神性と芸術性を空間に巧みに織り込んでいます。

「Moonlit Treading」は、曲線と直線という一見対立する要素を、幾何学の視点から再解釈しています。円弧や角度の繰り返し配置によって、構造の秩序感を強調しつつ、非対称なフォルムがルールを打破。これにより「脱構築的ミニマリズム」という独自の美学が生まれ、多様性の表現として空間に息づいています。

このプロジェクトの特徴は、クライアントの個性を反映した複雑さと、ミニマリズムの静けさが同居している点にあります。建築的な語彙と空間技法を駆使し、生活空間の複雑なニーズに応えることで、自己内省と幾何学・アートへの探求心を体現。住まい手の精神性を空間に投影する設計思想が際立っています。

素材選びにも独自性が光ります。低彩度のカラースキームのもと、蛇紋岩の床材とステンレスの壁が強い存在感を放ちます。曲線を描くクラック入りのテレビウォールや、クラシカルな装飾柱を現代的な台座で置き換えたディテールが、彫刻的な芸術性を演出。家具のアクセントには赤を用い、繊細な感情のニュアンスを表現しています。

機能面では、リビングやダイニング、エンターテインメント、ミーティングなど多様な活動に対応できるよう、共用部の間仕切りを排除。光と動線が自由に流れる設計で、素材によるゾーニングが空間の流動性を損なうことなく領域を定義します。コリドーの始まりを示す柱や、暗い廊下で隠された主寝室の入口など、プライバシーへの配慮も徹底されています。

環境への配慮も重要な要素です。壁や天井にはアイボリーの塗装、台湾のダム堆積物を用いたエコクレイ、花蓮産の砕蛇紋岩など、地元産のシンプルな建材を採用。大型タイルは廃棄ロスを考慮して不使用。家具は将来の分解・再組立を想定し、メタルやガラスなど耐久性とメンテナンス性に優れた素材を選択しています。

「Moonlit Treading」は、ミニマリズムの枠を超え、個人の精神性や芸術への探求を住空間に昇華したプロジェクトです。幾何学的なダイナミズムと内省的な静けさが共存するこの空間は、現代のライフスタイルに新たな価値観を提案しています。今後の住宅デザインにおける革新的な指標として、さらなる注目が期待されます。


プロジェクトの詳細とクレジット

プロジェクトデザイナー: Hsin Ting Weng
画像クレジット: Hey!Cheese
プロジェクトチームのメンバー: Hsin Ting Weng
プロジェクト名: Moonlit Treading
プロジェクトのクライアント: RIS Collective


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