茨城県つくばみらい市に位置する幸運寺の客殿は、長年にわたり地域住民に親しまれてきた。しかし、老朽化が進み修復が困難となったため、建築家・岩佐浩明氏による再建プロジェクトが始動した。設計の着想は、旧客殿の構造や地域の風景、歴史的背景の調査から得られた。特に、傾いた旧建物の梁や柱には、現在では入手困難な貴重な木材が使われており、修復を施すことで再利用するという発想が生まれた。
このプロジェクトのユニークな点は、単なる復元ではなく、現代的な機能性と地域社会の記憶の継承を両立させた点にある。新たな客殿は、寺院の他施設との調和を図りつつ、地域の伝統的な屋根形状や地元産の杉材、そして復活させた天然塗料「クメゾウ」を用いた外壁・格子が特徴的だ。これにより、懐かしさだけでなく、未来に向けた存在感をもたらしている。
建設にあたっては、軟弱地盤への地盤改良や強固な基礎工事、古材を活かすための特殊な木組み技術、可動式の杉格子の製作など、数々の技術的課題があった。加えて、伝統的な天然塗料の復元も行われ、卓越した職人技と設計力が結集された。平面計画は明快で、各機能が玄関ホールを中心に配置されている。
幸運寺の客殿は、法要や地域行事、会食、待合、さらには災害時の一時避難所として多目的に活用されている。寺務所も併設され、地域住民の生活と密接に結びついた存在だ。設計段階では、住職や地域住民へのインタビュー、年中行事や地形・歴史のリサーチが重ねられ、地域の核としての役割を再確認した。
伝統的な寺院建築ではなく、一般的な木造住宅工法を選択したことで、工期短縮とコスト削減を実現し、古材の修復・再利用に十分な時間を確保できた。これにより、地域固有の意匠と現代的な快適性を両立。2025年にはA'デザインアワード建築部門ブロンズ賞を受賞し、技術・創造性・地域社会への貢献が高く評価されている。
幸運寺客殿の再生は、過去と未来、伝統と現代性、地域社会と建築の新たな関係性を提示している。歴史の記憶を次世代へとつなぐこの建築は、地域に根ざしたイノベーションの象徴となっている。
プロジェクトデザイナー: Hiroaki Iwasa
画像クレジット: Photographer Kozo Takayama
プロジェクトチームのメンバー: Hiroaki Iwasa
プロジェクト名: Kouunji Kyakuden
プロジェクトのクライアント: Hiroaki Iwasa Architects Workshop