自然と文化が融合する岩山美術館「Yan」誕生

ラグジュアリーな体験を生む地形一体型アート空間

「Yan美術館」は、乳山の険しい山並みと石の質感からインスピレーションを得て設計されました。建築家・陶冠宇（Guanyu Tao）は、自然の地形と建築を調和させることを目指し、敷地の傾斜を巧みに活用。伝統的な中庭形式を取り入れたレイアウトにより、地域の文化遺産を現代空間に織り込み、自然と人間の創造性が交錯するダイナミックな芸術拠点を実現しています。

この美術館の最大の特徴は、自然の斜面をそのまま建築の一部として取り込んだ点にあります。傾斜地は遊歩道や広場、展望デッキとして機能し、来館者と地元アーティストの交流を促進。岩肌を思わせるテクスチャーコンクリートの外壁が、周囲の景観と一体化しながら、文化的表現と環境への配慮を両立しています。

建設には型枠テクスチャーを施した鉄筋コンクリートを採用し、岩のような質感と構造的安定性を両立。浅根性植物を用いたランドスケープデザインが建物の防水性と構造保護に寄与しています。三層構造の各フロアは階段やエレベーターで繋がれ、地形に沿った配置でバリアフリーにも配慮されています。

敷地面積2,700㎡、延床面積1,650㎡の館内は、1階に中庭型のエントランスとアーティストスタジオ、ギャラリーを配置。2階には小広場と常設展示ギャラリー、3階には伝統芸能のための野外劇場が設けられ、地域文化の発信拠点として機能しています。来館者は水盤と壁に囲まれた広場からスタートし、各階を巡りながら多様なアート体験を楽しむことができます。

設計は2024年9月に完成し、乳山の地形・文化・ユーザー分析をもとに、手描きやコラージュ、3Dモデリングなど多様な手法で検討されました。トム・メインやザハ・ハディドの作品に影響を受けたダイナミックな構造は、建築と地形、文化的アイデンティティの調和を追求しています。

「Yan美術館」は、地形の高低差を巧みに活かし、視線の抜けや動線の工夫によって、建築と自然が溶け合う新たな美術館像を提示。2025年には世界的なA'デザイン賞ゴールドを受賞し、その革新性と芸術性が高く評価されています。地域の精神と自然の美を祝福するこの空間は、今後も多くの人々にインスピレーションを与え続けるでしょう。