「Peach Blossom」は、住まい手の厳格な素材・質感へのこだわりを出発点に、デザイナー洪婉婷が大胆かつ革新的な提案を展開したプロジェクトである。中国古典「桃花源記」に着想を得た回遊動線や、清代画家・惲寿平の牡丹画をモチーフにした壁面アートが、空間全体に詩的な世界観をもたらしている。各壁面は一枚の絵画のように設計され、日常と芸術が美しく交差するギャラリー住宅へと昇華された。
このレジデンスの最大の特徴は、空間ごとに異なる景色が展開する「舟で川を下る」ような体験設計にある。リビングには山並みを模した天井と、ソファ背後に13層・70枚以上のパネルから成る牡丹のインスタレーションが配され、まるでバカンスのような非日常感を演出。ダイニングには夜空に浮かぶ太陽を思わせるゴールドリーフの照明と薄型タイルの壁が設けられ、隣接する地球の絵画とともに宇宙的な広がりを感じさせる。
素材選びにも徹底したこだわりが光る。特殊塗装やミラー、ファブリック、花崗岩、ヒノキ、格子、複合フローリングなど、多様なマテリアルがコラージュされ、ナチュラルな質感と現代的なラグジュアリーが共存。テレビ壁面ではクリスタルのような花崗岩が間接照明でほのかに輝き、バスルームには黒と白のコントラストにゴールドのアクセントが加わり、洗練と重厚感を両立している。
全体面積109平方メートルの空間は、4つの寝室、リビング、ダイニング、2つのバスルームを備え、退職後のゆとりある生活に最適化。キッチンは拡張され、日々の調理がより快適に。エントランスにはシガールームを設け、家族の動線を妨げない独立したアクセスも確保されている。
ワインセラーではラフな石材とチタンゴールドを組み合わせ、自然と洗練の対比を表現。主寝室の洗面台は金箔とクリスタルガラスで仕上げられ、アートギャラリーのような贅沢さを演出。夜にはスクリーンでプライベート空間を分け、ルーバーパネルやダークトーンの配色が没入感のある個室を実現している。
このプロジェクトは、2021年に台湾で完成し、2025年にはA' Design Awardのインテリア部門でブロンズ賞を受賞。芸術性と技術力、そして生活の質の向上を高く評価された。洪婉婷のデザインは、住まい手の人生と感情を映し出すキャンバスとなり、退職後の暮らしに新たな意味と美しさをもたらしている。
「Peach Blossom」は、アートと日常が溶け合う唯一無二のレジデンスとして、これからのライフスタイルに新たな指標を示している。芸術的な空間で人生を豊かに紡ぐ、その可能性をぜひ体感してほしい。
プロジェクトデザイナー: Wan-Ting Hung
画像クレジット: FULLHOUSE INTERIOR DESIGN CO., LTD.
プロジェクトチームのメンバー: Wan-Ting Hung
プロジェクト名: Peach Blossom
プロジェクトのクライアント: FULLHOUSE INTERIOR DESIGN CO., LTD.