東西文化が融合する「Spiritual Casa」田園住宅の美学

スペインと台湾の伝統が織りなす新しい住まいのかたち

「Spiritual Casa」は、台湾・宜蘭の田園地帯に佇む4階建て住宅。スペインと台湾、二つの文化を持つ夫婦のために設計されたこの住まいは、東洋と西洋の伝統を巧みに融合し、素材や色彩、ディテールを通して人と土地、そして故郷への想いをつなげている。

この住宅の最大の特徴は、スペインと中国の建築要素が絶妙に調和している点にある。三角屋根やスペインタイル、アイランドキッチンといった西洋の意匠に加え、中国伝統の屏風や花梨、古銭のモチーフが随所に配されている。これらの要素が空間にリズムを生み出し、住まう人の記憶や感情を呼び覚ます仕掛けとなっている。

家具には、地元職人による手編みの籐細工が採用されている。伝統的なほぞ組み技法を用いたこの家具は、台湾のクラフトマンシップの粋を体現し、温もりと機能性を兼ね備えている。自然素材の籐は通気性や調湿性にも優れ、1960年代台湾のレトロな雰囲気を現代に蘇らせている。

空間設計においては、視線や動線の滑らかさが重視された。玄関にはガラスタイルと低めのキャビネットを用いてキッチンとリビングを緩やかに仕切り、開放感を維持。キッチン中央のアイランドカウンターは、回遊性の高い動線を生み出し、生活の利便性と美しさを両立させている。主寝室も同様に、中央のチェストを囲むように動線が設計され、収納とプライバシーのバランスが保たれている。

色彩計画では、グレーやミルクティー色などのアースカラーが基調となり、空間全体に中立的で落ち着いた雰囲気をもたらしている。その上で、スペインの伝統建築に見られる鮮やかなタイルや構造美がアクセントとなり、東西の文化が自然に溶け合う空間が実現されている。天井やスクリーンのトーテム、籐細工や型押しガラスなど、細部にまでこだわりが光る。

設計上の課題としては、1階の梁や階段による水平・垂直空間の圧迫感を解消するため、キッチン天井に三角屋根を設けて視界を広げる工夫が施された。リビングの天井には中国の円弧モチーフを採用し、柔らかな空間ラインと空調設備の両立を実現している。

「Spiritual Casa」は、2025年にA' Design Awardのインテリア部門でIron賞を受賞。プロフェッショナルな要件を満たしつつ、実用性と革新性を兼ね備えた住宅として高く評価された。東西文化の融合がもたらす新しいライフスタイルの提案として、今後も注目を集めていくだろう。


プロジェクトの詳細とクレジット

プロジェクトデザイナー: MENG CHUAN HO
画像クレジット: MENG CHUAN HO
プロジェクトチームのメンバー: HO MENG CHUAN LAM TSZ KWAN
プロジェクト名: Spiritual Casa
プロジェクトのクライアント: DHouse Interior Design Co.,Ltd.


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