千の情景を紡ぐカフェ:光と影が織りなす空間美

鏡と色彩が生み出す、都市の隠れ家コーヒーショップ

台北市北投区に誕生した「Crafting 1000 Scenes」は、光と影、鏡の効果を巧みに活用し、都市の喧騒から離れた静寂なひとときを提供する新たなコーヒーショップです。デザインユニット・Hou Chun ChenとHao Hong Linが手掛けたこの空間は、四季の移ろいを感じさせるレイヤリングと、感覚を刺激する素材使いで、訪れる人々に唯一無二の体験をもたらします。

「千景(Chian Jing)」という店名が示す通り、このカフェは単なる飲食空間ではなく、光と影、鏡の反射を重ねることで、訪れるたびに異なる情景を楽しめる物語性のある空間を創出しています。従来のコーヒーショップが商品ディスプレイや座席配置に重点を置くのに対し、本プロジェクトでは多様な素材とコントラストを駆使し、四季の美しさや都市の中の自然を巧みに取り入れています。

元々アパレルショップだった66平方メートルの2階建ての建物は、若きオーナー3人のブランド創出への情熱と、スペシャルティコーヒーへのこだわりが息づく場所へと生まれ変わりました。1階の4メートルの高天井には、爽やかなターコイズグリーンと曲線のヴォールト天井が広がり、真鍮のペンダントライトが英国風のクラシックな雰囲気を醸し出します。都市の密集地にありながら、ここは呼吸できる余白を残した“隠れ家”として機能しています。

空間の随所には鏡面や金属加工、装飾塗装、メラミン板、難燃性PVCタイルなど多彩な素材が用いられています。バリスタカウンターの背後から階段、天井へと連続する鏡は、細長い空間の奥行きを視覚的に拡張し、幻想的なレイヤー効果を生み出しています。2階は夜のバーとしても機能し、黒と白を基調とした現代的なエレガンスが漂います。自然光が届きにくいエリアには直線的な人工照明を配置し、空間全体に季節の移ろいを感じさせる光のグラデーションを演出しています。

環境への配慮も徹底されており、合成素材の使用を最小限に抑え、低VOCの木材パネルやミネラル顔料、エコペイントを採用。耐水性や通気性にも優れ、健康とサステナビリティを両立した設計となっています。家具もカスタムメイドで、香り高いコーヒーとともに温かみのある時間を提供します。

このプロジェクトは2023年8月に完成し、A'デザインアワード2025のインテリアスペース部門でアイアン賞を受賞。業界のベストプラクティスと技術的な完成度が高く評価されました。都市生活者にとって、日常の中で心を解き放ち、五感で味わうコーヒータイムを提案するこのカフェは、まさに“千の情景”を紡ぐ新しいライフスタイルの拠点です。

「Crafting 1000 Scenes」は、空間デザインがもたらす豊かな体験と、持続可能な未来への配慮を両立させた、現代都市における理想的なコーヒーショップの在り方を示しています。都市の中の静かなオアシスで、日常に彩りと安らぎをもたらすこの場所は、今後も多くの人々に新たなインスピレーションを与え続けるでしょう。


プロジェクトの詳細とクレジット

プロジェクトデザイナー: HOU-CHUN CHEN
画像クレジット: HOU-CHUN CHEN
プロジェクトチームのメンバー: YANGFU DESIGN HAO HONG LIN HOU CHUN CHEN
プロジェクト名: Crafting 1000 Scenes
プロジェクトのクライアント: CHIAN JING COFFEE


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