マルコス・スタジアム、伝統を織り交ぜた革新的建築

地域社会と一体化する、新たな公共スペースの提案

スタジアムが単なるスポーツの舞台に留まらず、日常生活に溶け込む公共施設としての可能性を追求したWTA建築デザインスタジオ。フィリピンのラオアグ市に誕生したマルコス・スタジアムは、その理念を具現化した作品です。

かつてのスタジアムは、朝のジョギングや学生たちの憩いの場として親しまれていました。この開放性の記憶が、真に公共的な空間を創造するという思いの原点となりました。アテネのパナテナイコ・スタジアムは、その広々とした空間が周囲の自然と調和し、静謐な雰囲気を醸し出しています。これに対し、近年のスタジアムはますます奇抜な形状を追求する傾向にありますが、マルコス・スタジアムはその原点に立ち返り、コミュニティの一部としての役割を果たすことを目指しました。

スタジアムの南端には、ピクニックを楽しむことができる斜面の芝生や、壮大な背景を持つ円形劇場が設けられています。かつて道路だった東側は、大学との接続を強化するプロムナードに変貌し、スタジアムをキャンパスの一部に変えました。座席下のスペースには、市民が自由に利用できるウォームアップトラックがあります。この社会的な建築の表現により、誰もがアクセスできるバリアフリーのスタジアムが実現しました。

建築は差別してはなりません。公共の場は、特に貧しい人々に対して閉じるべきではありません。公共資金で建設された空間に入るためにチケットが必要などということはあってはなりません。マルコス・スタジアムは、スタジアムでありながら公園でもあり、差別のない空間です。コミュニティを結びつける社会インフラとしての役割を果たしています。

マルコス・スタジアムは、地元の建築家やエンジニアによって建てられました。すべての構造部材は地元で生産され、組み立てられています。環境にも社会にも持続可能なスタジアムであり、真に公共の利益に奉仕しています。屋根や通路、鋼鉄のベイ、コンクリートのデッキは頑丈でありながら、その構造をあえて露出させることで、農業社会の起源を象徴する広大さや開放感を表現しています。

このスタジアムは、2019年に計画が始まり、2023年5月に完成しました。WTAは、地元の職人や建築家と協力し、文化的に豊かで活性化されたスタジアムを再創造しました。この再設計は、伝統と現代性を調和させ、地域の成長とコミュニティの誇りを育むモデルとなります。

2024年、マルコス・スタジアムはA'建築、建物、構造デザインアワードでゴールデン賞を受賞しました。この賞は、デザイナーの才能と知恵を反映し、芸術、科学、デザイン、技術を進歩させる優れた作品や明るいアイデアに授与されます。世界に望ましい特性をもたらし、顕著な卓越性を体現する製品やアイデアを称えるものです。


プロジェクトの詳細とクレジット

プロジェクトデザイナー: William Jr Ti
画像クレジット: William Jr Ti
プロジェクトチームのメンバー: William Jr Ti
プロジェクト名: Ferdinand E Marcos Stadium
プロジェクトのクライアント: WTA Architecture and Design Studio


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