植物とナノセンサーが融合、水質監視の新たな可能性

ハルプリート・シン・サリーンによる革新的なプロジェクト「Argus」

水質汚染は世界的な問題であり、その解決策を求める声は日増しに高まっている。その一方で、デザイナーのハルプリート・シン・サリーンは、植物とナノテクノロジーを組み合わせた新たな水質監視システム「Argus」を開発し、その可能性を示している。

「Argus」は、植物の葉の中にナノセンサーを注入し、重金属の水質汚染をリアルタイムで検出するという画期的なプロジェクトだ。このプロジェクトの背景には、フリント水質危機やニュージャージー州の学校の水問題、オースティンの2019年の水質警告など、現在の水質監視手法の問題点がある。これらの事例では、汚染が発見されるまでにはすでに遅く、致命的な結果を招くことが多い。これに対し、「Argus」は電気を必要とせず、常時水質を監視することが可能なプラットフォームを提供する。

「Argus」の最大の特徴は、植物の葉の中に注入されたナノセンサーが、特定の波長の光を発することで、水中の鉛の存在を視覚的に示すことができる点だ。このセンサーは、2nmという微小な大きさで、葉の細胞間空間に存在する。植物は自然環境で24時間働く自然のモーターのようなもので、常に環境の水をサンプリングし、それに伴う不純物も取り込む。このため、「Argus」は、現在のラボメソッドと比較して、15分から2時間という短時間で重金属毒性を検出することが可能だ。

このプロジェクトの開発には、現実的なリード毒性監視のオフ・ザ・シェルフセンサーが存在しないという問題や、植物内の化学センサーがデジタル世界と接続する必要があるという課題があった。しかし、これらの課題を克服し、「Argus」は世界初の電気を必要としない水質監視プラットフォームを創出した。

「Argus」は、2017年に開始され、2019年に完成。以来、バンガロールのサイエンスギャラリーやニューヨークのWSJフェスティバルなど、世界中で展示されている。このプロジェクトは、2021年のA' Cybernetics, Prosthesis and Implant Design Awardでシルバー賞を受賞し、その革新性と優れた技術力が評価されている。

「Argus」は、水質監視の新たな可能性を示すだけでなく、自然とテクノロジーの融合による新たな価値創造の一例でもある。これからも、このような革新的なプロジェクトが、私たちの生活をより豊かで安全なものにするための一助となることを期待したい。


プロジェクトの詳細とクレジット

プロジェクトデザイナー: Harpreet Singh Sareen
画像クレジット: Images: Harpreet Sareen CC 4.0 Motion graphics: Jiefu Zheng
プロジェクトチームのメンバー: Harpreet Sareen Pattie Maes
プロジェクト名: Argus
プロジェクトのクライアント: Harpreet Singh Sareen


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